最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)855号 判決
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〔要旨〕強制疎開の実施にあたり上告人所有の建物のみならずその敷地に対する借地権も買収の目的物となり建物の補償価額中に敷地の借地権の補償価額をも包含せしめて給付せられ、上告人が異議なく之を受領して右借地権の買上げを承諾したとの原審認定に係る事実関係はその挙示する証拠によつて之を認定することができる。論旨は畢竟原審のした右事実認定を非難するに帰着し適法な上告の理由とすることはできない。
〔説明〕本件の主たる争点は「東京都に於ける第六次強制疎開にあたつて疎開建物の敷地の借地権者はその借地権を喪失したか否か」に在るのであつて、此の問題については従来事実審裁判所に於て「借地権は買収された」と認定したものと「買収されなかつた」と認定したものとの全く相反する二種の判決が為されて居り、而も前者の中には本件の様に「任意契約により買収された」と為すものと「借地権者の承諾の有無に拘らず防空法により買収された」と為すものとの二種があるようである。
ところで右のうち最も問題となるのは防空法によつて地方長官が借地権を収用したと為すものであるが、本件に於て此の点は直接問題となつて居らず又なり得ないのであつて本判決も之に言及して居ない。(けれども念のため当時の防空関係法令を調べて見ると、防空法五条ノ五、六は単に「建築物」云々と規定しその敷地の借地権の運命につき直接規定するものでなく、同法一三条二項、同施行令九条二項は建築物除却によつて敷地の借地権者に事実上生じ或は生ずべき損害を補償すべき旨を定めたもので右補償規定の故を以て直ちに借地権が建築物除却により消滅するものと即断し難く、更に同法五条ノ八は「土地」所有権の収用を認めて居るけれども借地権の収用を認めた趣旨とは解し難く=尤も、学説としては土地の収用と同時に借地権も収用されたものと見るべきであるとの見解があるが、右見解によつても借地権のみを収用することは認められて居ないこととなる。又土地所有権が収用された場合その土地の借地権は防空法施行令三条ノ四、土地工作物管理使用収用令一一条によつて消滅するものと解されるが、右はもとより借地権自体の収用ではなく、更に法五条ノ八によつて土地が使用された場合は単にその期間借地権の行使が停止されるだけで借地権自体は消滅するものではないと解される=又法九条も直接借地権の収用を認めた規定ではなく、結局防空関係法令に基いては土地収用により借地権の消滅することはあるけれども、少くとも借地権のみを土地所有権とは別個に収用することは許されて居なかつたのではないかとの疑いが濃い。)。
すると、本件に於ける問題は事実認定乃至当事者の意思解釈に帰着するところ、原判決挙示の関係証拠就中東京都防衞局長の区長宛補償に関する通牒案には「第六次建物疎開事業ハ戦局ノ推移ニ鑑ミ極メテ短時日ニ完了セシムルコトヲ従ツテ之カ損失補償ノ決定及其ノ事務手続等ハ徹底セル簡易化方式化ヲ必要トセラルルニ依リ従来実施シ来レル補償手続ニ拠リ難キヲ以テ之カ臨時措置トシテ……一、建物ノ買収価格ハ……四、借地権ニ関シテハ第一項ノ建物価格ニ包含セラレタルモノトシ別ニ之ガ補償ヲ為サズ云々」と記載されて居り之等証拠に拠れば右の趣意が「昭和二〇年一月以前施行の東京都第一次乃至第五次の強制疎開の際には借地権の価格を建物と別箇に評価し補償して居たが同年三月二二日施行の第六次強制疎開の際には建物とその敷地の借地権に対する補償金額を同時に算出し得る特殊な方式を案出して借地権の補償を建物の買収価格中に算入し借地権のみの補償手続を改めて別箇に採らないこととする」旨を定めたものであること、右実施により算出された補償額は第五次迄の強制疎開に於ける同程度の建物及びその敷地の借地権の補償額の合計よりも一般に上廻つて居たこと等原審認定に係る事実関係が認定し得られ、論旨は結局原審が適法に証拠に基いて為した右事実認定を非難するに帰着するので之を適法な上告理由と為し難く、棄却を免れ得ないのである。